予防と対策

免疫力アップに重要な、
強い“IgA”を作る方法

免疫力アップに重要な、強い“IgA”を作る方法

カギを握るのは「粘膜の免疫」

2020年、私たちの生活環境は大きく変化しました。中でもウイルス対策への意識は高まる一方ですが、さまざまな細菌や感染症から体を守るために注目すべきなのが「粘膜の免疫」です。

おなじ体の表面でも、皮膚と腸管(粘膜)では構造が異なります。皮膚は多層構造のため異物がすぐには体内に侵入しません。これに対して、粘膜は体の内側と外側がたった一層で区切られているため、異物が非常に侵入しやすい構造となっています。だからこそ、粘膜系の免疫が重要なのです。

なぜ粘膜の免疫が重要か?│体の内と外を分ける皮膚と腸管(粘膜)の構造から
なぜ粘膜の免疫が重要か?│カラダの内と外を分ける皮膚と腸管(粘膜)の構造から

攻めの免疫、守りの免疫

免疫の種類は大きく分けて2つあります。それが「自然免疫」と「獲得免疫」です。自然免疫とは人が生まれながらに持つ免疫で、外敵の侵入を素早く察知してやっつけてくれる前衛隊です。対して獲得免疫とは、生まれたときには未熟ながら、外からの刺激を受けることで発達する防衛機構です。獲得免疫は、自然免疫がやっつけた外敵の情報を受け取ることで育ちます。抗体などもその一種です。

抗体は自然免疫からの情報を基に特殊化されたタンパク質で、新たに侵入した敵を特異的に攻撃する性質を持っています。しかし、抗体の準備には最低でも2週間程度の時間がかかってしまうという難点があるため、この抗体を準備する期間をいかに稼ぐかが、強い免疫づくりの秘訣といえるでしょう。

免疫の二重の備え│自然免疫と獲得免疫
免疫の二重の備え│自然免疫と獲得免疫

つまり粘膜から外敵の侵入を防ぐには、必ずしもシャットアウトする必要はありません。なぜなら、少量の外敵は獲得免疫を育てることにもつながるからです。重要なのはあくまで、侵入する外敵の量を「減らす」ことなのです。そのため、侵入する敵を減らすことを目的とするマスクや手洗いうがいは非常に重要なのです。

粘膜免疫の要、それが“IgA”

抗体の中でも、生体防御の最前線として発達を遂げてきた抗体のひとつが「IgA」です。IgAは体内で最も多く産生されている抗体で、全身の粘膜で作用し、毒素などの異物を排除してくれます。また1対1 ではなく様々な異物に対応できるのも特徴で、近年では腸内の常在菌に含まれる善玉菌、悪玉菌を見分けていることも新たに発見されるなど、粘膜免疫で重要な役割を果たしています。

IgA(免疫グロブリンA)とは?
IgA(免疫グロブリンA)とは?

Woof JM & Russell MW :
Mucosal Immunol, 4 : 590-597, 2011.より引用

IgAにも「強いIgA」がいる

ひと口にIgAと言っても、その働きは一律ではありません。実はIgAにも「強いIgA(高親和性IgA)」と「弱いIgA(低親和性IgA)」がいるのです。強いIgAは腸内細菌などをしっかりキャッチし、ウイルスの毒素にも対抗することができますが、弱いIgAは良い菌と悪い菌を見分けることができず、ウイルスの毒素に充分に対抗することができません。もともと持つ抗体を体の中でしっかり教育して強くすることが重要なのです。

IgAには、”強いIgA” と ”弱いIgA” がある
IgAには、”強いIgA” と ”弱いIgA” がある

どうすれば
「強いIgA」がつくれる?

IgAを増やすためには、まず腸内細菌を意識しましょう。私たちの食べたものは腸内細菌のエサにもなりますし、腸内に潜む善玉菌の代謝物は健康にとってよい働きをしてくれます。中でも、ビフィズス菌などの善玉菌が水溶性の食物繊維などをエサに大腸内でつくり出す「短鎖脂肪酸」は、IgAの産出量を増やしてくれるという事実が近年、研究で明らかになっています。

IgAの産出量を増やし強いIgAをより多く生み出すためには、伝統的な発酵食品やホールフード、善玉菌のエサとなる食物繊維、「短鎖脂肪酸」を生み出すことのわかっているビフィズス菌などをバランスよく食事に摂り入れることが大切なのです。IgAをはじめとする「ミクロの戦士」たちが外敵と渡り合うために、日々の食生活を見直して腸内環境を整えておきましょう。

“強いIgA” をつくるために│バランスの良い食事
“強いIgA” をつくるために│バランスの良い食事

監修:新藏 礼子
(東京大学 定量生命科学研究所
免疫・感染制御研究分野 教授)

プロフィール:京都府生まれ。86年京都大学医学部医学科卒業。同年麻酔科臨床医として病院勤務。92年京都大学大学院医学研究科分子生物学大学院生、続いて研修員。99年米国ハーバード大学こども病院留学。2003年京都大学大学院医学研究科分子生物学、寄附講座免疫ゲノム医学助手、講師、准教授。10年長浜バイオ大学バイオサイエンス学部バイオサイエンス学科生体応答学教授。16年奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科応用免疫学教授。18年東京大学分子細胞生物学研究所(現・定量生命科学研究所)免疫・感染制御研究分野教授。二児の母。

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