「大腸劣化」の悪影響

「うつ」や「肥満」と
腸の深い関係

「うつ」や「肥満」と腸の深い関係

注目される「腸」と「脳」の関係

生活環境が大きく変化し、さまざまなストレスを感じる人が増えています。そうしたメンタルの健康リスクを予防する手段の一つとして近年研究が進んでいるのが、「脳腸相関」と呼ばれる脳と腸との密接な関係です。脳がストレスを感じることで急に便意を催すなどの症状は広く知られていますが、近年では腸の不調がメンタルに影響を及ぼすこともわかってきています。

うつ病患者の腸内には
ビフィズス菌が少ない?

うつ病(特に慢性うつ病)の人は、下痢や便秘、腹痛が続く過敏性腸症候群を発症している割合が、疾患のない人に比べて3倍〜5倍にも上るという結果が報告されています※1。また逆に過敏性腸症候群の人は不安症状やうつ症状を持つことが多いとも知られています※2。さらに研究の結果、うつ病の人は健康な人と比べ、大腸内にビフィズス菌などの有用菌が少ない傾向にあることがわかりました。有用菌が一定数以下になると、うつ病発症のリスクがおよそ3倍にまで増大することが示唆される結果が得られています。※3
腸内フローラのバランスの乱れは様々な疾病を引き起こす要因となりますが、このようにうつ病などの精神疾患とも関連が明らかになり、専門家の間でも大きな健康課題として受け止められています。

大うつ病性障害患者と健常者のビフィズス菌の比較
大うつ病性障害患者と健常者のビフィズス菌の比較

ストレスが肥満を呼び、
肥満がうつを呼ぶ

外出の自粛などによる運動不足で肥満の悩みを抱えている人も少なくありません。しかしそれも、実は生活様式が変わったことで受けるストレスと関係しているかもしれないのです。一般的に、ストレスを受けると食欲が増し、結果的に肥満につながることがわかっていますが、最近の研究によると、肥満はうつ病発生のリスクを1.5倍に高め、逆にうつ病も肥満のリスクを1.5倍に引き上げることが明らかになっています。※4ストレスによる食欲増進が肥満をもたらし、その肥満がうつを呼び、うつがさらなる肥満の原因になる…そんな「負のスパイラル」が起きてしまうのです。

負のスパイラルを止めるために

こうした負のスパイラルに陥らないためには、腸内環境を整えることが大切です。そこで重要となるのが日々の食生活です。ビフィズス菌などの有用菌を含む食品(プロバイオティクス)と、有用菌のエサとなる水溶性食物繊維やオリゴ糖などの食品(プレバイオティクス)を意識して摂るように心がけましょう。また、食生活だけでなく、適度な運動で気分転換や肥満対策をし、しっかり睡眠をとって生活リズムを整えるなど、生活習慣全体を見直し、メンタルバランスを保っていきましょう。

腸内環境を整える組み合わせ
腸内環境を整える組み合わせ

※1 Garakani A, Win T, Virk S, Gupta S, Kaplan D, Masand PS: Comorbidity of irritable bowel syndrome in psychiatric patients: a review. Am J Ther. 2003 Jan-Feb;10(1):61-7.

※2 Fond G, Loundou A, Hamdani N, Boukouaci W, Dargel A, Oliveira J, Roger M, Tamouza R, Leboyer M, Boyer L: Anxiety and depression comorbidities in irritable bowel syndrome (IBS): a systematic review and meta-analysis. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2014 Dec;264(8):651-6.

※3 Aizawa E, Tsuji H, Asahara T, Takahashi T, Teraishi T, Yoshida S, Ota M, Koga N, Hattori K, Kunugi H:Possible association of Bifidobacterium and Lactobacillus in the gut microbiota of patients with major depressive disorder. J Affect Disord. 2016 Sep 15;202:254 7.

※4 Luppino FS, de Wit LM, Bouvy PF, et al: Overweight, obesity, and depression: a systematic review and meta analysis of longitudinal studies. Arch Gen Psychiatry 2010, 67: 220 229.

監修:功刀 浩
(帝京大学医学部精神医学神経科学講座 帝京大学医学部附属病院メンタルヘルス科 教授)

プロフィール:東京大学卒業後、帝京大学精神科学教室にて、薬物療法、気分障害の臨床、力動的精神療法について学ぶ。ロンドン大学精神医学研究所にて、分子遺伝学的研究を行う。以後、精神疾患の生物学的研究を継続的に行っている。専門は統合失調症やうつ病の脳科学、新たな診断・治療法の開発。最近は、脳脊髄液を用いたバイオマーカーや創薬標的分子に関する研究に精力的に取り組む。また、食生活・栄養に着目した研究も積極的に行っている。

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