「大腸劣化」の悪影響

「免疫力を高めるなら、大腸から」のわけ

松井 輝明

「免疫力を高めるなら、大腸から」のわけ

大腸は毒素の侵入を防ぐゴールキーパー

私たちの体には「免疫」という防御システムがあり、有害なウイルスや毒素が体に侵入してきても病気にならないよう撃退する力が備わっています。

免疫には2つの種類があります。自然免疫と獲得免疫です。

自然免疫は最初の防御として受容体を介して侵入してきた異物や病原菌をいち早く感知し、それを攻撃して排除する仕組みです。ここで働くのは好中球・マクロファージ・樹状細胞です。しかし自然免疫では撃退しきれないものがあります。それは血液中に流れている毒素分子や小さな病原体、また細胞の中に入り込んだ病原体などです。樹状細胞は、そうした病原体の情報をヘルパーT細胞とキラーT細胞に伝えます。ヘルパーT細胞はB細胞に抗体をつくるように指令を出し、各種抗体により攻撃します。キラーT細胞は、感染した細胞を見つけ出して殺すことができます。これらの働きをしているのが、獲得免疫です。

このように、自然免疫と獲得免疫の連携によって、効果的に全身の健康が保たれています。そしてそれらの免疫の約7割が腸に集中しているのです。

免疫の主な担い手は小腸です。小腸の腸壁やその粘膜の下には「パイエル板」という免疫器官が備わっており、T細胞やB細胞と呼ばれる免疫細胞がぎっしりと並んでいます。そして異物や病原菌が来るとつかまえて食べて(貪食)しまうのですが、なかには小腸での攻撃をくぐり抜けて大腸まで達するものもあります。

しかし、大腸に入ってきた病原菌のすべてが発症するわけではありません。病原菌が作り出した毒素が、大腸の腸壁を通過して血管に入り込まなければセーフ、発症しません。いわば、大腸は最後の砦。サッカーに例えるなら、小腸はディフェンダー、大腸はゴールキーパーのような役目で、毒素の侵入を徹底的に防いでいるのです。

免疫機能は過剰に働きすぎるのもよくありません。花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどはその例です。腸内で免疫機能が制御不能に陥ると潰瘍性大腸炎やクローン病を引き起こしてしまうため、小腸の免疫が暴走しないよう大腸がコントロールしていることも明らかになっています。このように、小腸と大腸の免疫はとても密接に関係しています。

大腸はゴールキーパー
大腸はゴールキーパー

免疫力アップに欠かせない大腸内の短鎖脂肪酸

免疫力を高めるためには、腸内環境を良好に保つことが大切です。ビフィズス菌をはじめとする善玉菌には、IgA(免疫グロブリンA)の産生を促進する働きがあり、感染症の罹患・重症化リスク低下にも一役買っています。余談になりますが、母乳を飲む乳児が感染症にかかりにくいのは、このIgAが母乳中に豊富に含まれているためです。

また大腸では善玉菌が作り出す短鎖脂肪酸によって、腸壁の内側にあるムチンという粘液が増やされバリアを張り、有害菌が入らないようブロックする役割をはたします。さらにビフィズス菌が腸管上皮細胞の炎症を抑制し、バリア機能をアップさせることも報告されており、腸管の免疫機能を維持し、食品抗原が体内へ入って引き起こされるアレルギーの予防にも役立っていると言われます。

腸内環境の乱れは、免疫力の低下や、感染症のリスクの増加と大きく関係しています。日頃から善玉菌と善玉菌のエサとなる水溶性食物繊維やオリゴ糖、ラクチュロースなどを摂り、大腸から免疫力アップに取り組むことが健康への近道と言えるでしょう。

ウイルス・病原菌を攻撃したり、毒素を無毒化したりするタンパク質

善玉菌優位の大腸
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