「大腸劣化」の悪影響

便秘の人は、
一生懸命がんばっても“空回り”!?

「便秘の人は、一生懸命がんばっても“空回り”!?

「ネガティブ思考」も「やる気が出ない」も便秘のせい?

便秘は現代人にとってあまりにも身近な症状であるため、個人の体質・体調の問題として片付けられがちです。しかし便秘を放置し、しっかりとした予防・改善の取り組みがなされなければ、やがて「生活の質」や「仕事の生産性」にまで悪影響がおよぶかもしれません。

2020年に杏林大学名誉教授の古賀良彦先生監修のもと実施した「便秘と生産性に関する検証実験」の参加者アンケートによると、便秘の人の心理状態は快便の人と比べて、「怒り・敵意」「混乱・当惑」「抑うつ・落ち込み」「疲労・無気力」「緊張・不安」といったネガティブな感情のスコアが高いことがわかりました。一方「活気・活力」「友好」に関するスコアは低く、総合的な気分(TMD得点)もネガティブな状態であることも明らかになりました。

【図1】 課題遂行直前の心理状態に関するアンケート(POMS2)
【図1】 課題遂行直前の心理状態に関するアンケート(POMS2)

便秘が勉強や仕事の
パフォーマンスにも影響する?

便秘の影響は、気分の落ち込みややる気低下といったメンタル面だけではありません。便秘の人は快便の人に比べて、注意力や記憶力を必要とする課題のパフォーマンス(とくに計算課題の達成数、正答数)が低い傾向にあることも判明したのです。

【図2】 計算課題の成績(クレベリン検査)
【図2】計算課題の成績(クレベリン検査)

計算課題を実施している間、心拍センサーで参加者の自律神経機能をモニター解析しました。すると、便秘群は快便群ほど交感神経と副交感神経のバランスが保たれておらず、過度の緊張状態に陥っていることが分かりました。一方で、快便群は自律神経のバランスがよく、課題の遂行に適した程よい緊張感が保たれていることが確認されています。

一生懸命がんばっても
“空回り”とは?

では、便秘の人の脳はあまり働いていないということなのでしょうか。おもしろいことに、脳の前頭葉の活動状態を反映する光トポグラフィ画像をみると、便秘群は快便群と比べて計算課題、記憶課題ともに前頭葉がより活性化している(濃い赤の部分が多い)ことが分かります【図3】。課題の成績は、快便群よりも便秘群で低くなっていた【図2】ことから、便秘の人の脳は一生懸命働いているにもかかわらず、それが結果に結びついていない、いわば“空回り”ともいえる状態にあることが分かります。逆に言うと、快便群は省エネで同等以上のパフォーマンスを発揮できているという見方もできます。

【図3】 課題(計算課題、記憶課題)遂行中の光トポグラフィ画像
【図3】課題(計算課題、記憶課題)遂行中の光トポグラフィ画像

腸と脳は「脳腸相関」と表現されるように、互いに密接に関連して働いています。 今回の結果は、便秘という腸の不調が脳の機能にも作用し、自律神経やパフォーマンス、さらには心の状態にまでネガティブな影響を与えることを生理学・心理学的に裏付けたものです。便秘を放置せず適切に対処することは、脳のスムーズな働きを促すことにもなり、ひいては生産性の向上にもつながると考えてもよいでしょう。 “たかが便秘”と侮ることなく、毎日の生活のなかで積極的に大腸劣化対策に取り組んでいきましょう。

検証試験概要

試 験 名 : 便秘と生産性に関する検証試験

目  的 : 便秘群と快便群で心理状態、パフォーマンス、自律神経機能、光トポグラフィ装置による脳機能の測定を行い、便秘群と快便群との相違を多次元的に検証する。

調査対象 : 30~50歳代の有職女性14名(平均年齢43.9±7.6歳)

便秘群7名 (便秘の自覚があり、排便が週に3回未満)+快便群7名(便秘の自覚症状がなく、排便が週に5回以上)

調査期間 : 2020年3月14日(土)・15日(日)

試験監修 : 杏林大学名誉教授 古賀良彦

試験協力 : (株) スペクトラテック代表取締役 大橋三男
十文字学園女子大学准教授 小長井ちづる

監修:
古賀良彦(杏林大学 名誉教授 精神科医)

プロフィール:昭和46年慶応義塾大学医学部卒業。昭和51年杏林大学医学部精神神経科学教室に入室。その後、平成2年に助教授、平成11年に主任教授となり、平成28年より現職。日本催眠学会名誉理事長、日本ブレインヘルス協会理事長、日本薬物脳波学会副理事長、日本臨床神経生理学会名誉会員などを務める。

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