大腸に迫るリスク

日本人の大腸劣化を加速させる、
意外な要因

松井 輝明

日本人の大腸劣化を加速させる、意外な要因

現代日本人の「大腸劣化」が激増しているこれだけの理由

テレビで特集された身体に良い食材が流行ったり、フィットネスクラブが大盛況だったりと、人生100年時代を迎えますます健康ブームに沸く日本。それなのに日本人の大腸が今、劣化の危機だと言われるのはなぜでしょう。その理由は決して1つではありません。

まず考えられるのが、「食の欧米化」です。下のグラフを見ると、たんぱく質、脂質、糖質(炭水化物)の供給熱量割合(PFCバランス)の中で、脂質が増え、反対に穀物を中心とした炭水化物の比率が減少しています。また、魚食より肉食が増えていることも欧米化傾向のひとつです。農林水産省の食糧需給表によると、年間1人あたりの食肉供給量は、1965年に9.2kgだったのが、2018年には33.5kg(概算)にまで激増しています。(魚食は28.1㎏から23.9㎏に減少。)そういったことからも、脂質の摂取が増えていることがわかります。

国立がん研究センターが実施した評価によると、ハムやベーコン、燻製などの加工肉や赤肉は大腸がんの発生リスクについて「可能性あり」とされていますので、意識しておきましょう。

たんぱく質・脂質・糖質(炭水化物)の供給熱量割合
たんぱく質・脂質・糖質(炭水化物)の供給熱量割合

出典:「食糧需給表」2017年 昭和40年度は科学技術庁「四訂日本食品標準成分表」
平成28年度は「日本食品標準成分表2015」を適用」

また、意外にもテレビ番組やインターネットで話題になった「糖質制限」や「たんぱく質(プロテイン)」ブームも、大腸を劣化させる要因の一つです。

全国の成人1000人を対象にしたある調査によると、「糖質を意識した食生活の経験がある」と答えた人は全体の約4割で、そのうちの約7割の方が、糖質の適正量を意識するのではなく、とにかく糖質を減らすことだけを意識したと答えています。

糖質を意識した食生活を送った経験の有無 (n=1,000)

たんぱく質(プロテイン)についてはこれまでは筋肉をつけたいアスリート向けのものというイメージでしたが、近年は女性や高齢者にまで需要が拡大しています。美容や健康目的でプロテインを摂取する人が増え、コンビニやスーパーなどでもたくさんのプロテイン配合商品が並んでいます。

このような食事のスタイルはダイエットや生活習慣病予防のために実践する方が多いと思いますが、大腸劣化を招く恐れがあることまでは、まだあまり知られていません。

「糖質制限」の方法としてよく行われがちなのが「炭水化物抜き」ですが、炭水化物は糖質と食物繊維でできているため、糖質をカットする目的でごはんやパンなどの炭水化物を減らしてしまうと、善玉菌のエサとなる食物繊維まで不足してしまいます。その一方で、たんぱく質は悪玉菌のエサになるため、過剰に摂取すると悪玉菌優勢の腸内環境に偏りやすくなります。糖質オフもたんぱく質の摂取も、適度の実践なら良い影響をもたらすものの、行き過ぎた制限や過剰摂取にならないよう、正しい知識を持っておくことが大切です。

悪玉菌優勢の腸内環境→大腸劣化へ

ストレスや加齢も腸内環境悪化の原因に

腸内フローラのバランスは、上記のような食生活に限らず、緊張や不安などの日常のストレスや加齢によっても変化します。毎日ストレスなく生活していくのは現代社会では難しいと思いますが、大腸劣化を招く一因ですので、少しでも減らせるよう心がけたいものです。

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