大腸に迫るリスク

糖質制限ダイエットは逆効果!?

森田 英利

糖質制限ダイエットは逆効果!?

炭水化物を避けることで
大腸に起こる2つの影響

大腸劣化の原因の1つとして考えられているのが、近年のダイエットブームにおける過度な糖質制限です。糖質制限ダイエット中は炭水化物の摂取を控えたくなりますが、ご飯などの炭水化物には糖質だけでなく、大腸を良い状態に保つのに欠かせない食物繊維も含まれていることを忘れてはいけません。

欧米的な食生活への変化により、日本人のかつての食事と比較して食物繊維が不足しがちな現代人が炭水化物の制限に取り組むと、さらに深刻な食物繊維不足になりかねません。そこで、糖質制限実施者の腸内環境がどうなっているのかを調査するために、「糖質制限が腸内フローラ(腸内細菌叢)に与える影響に関する検証試験」を実施しました。その結果、糖質制限実施者は一般の人よりも腸内フローラの状態が悪くなっているようで、なおかつ太りやすい状態に陥っていることが分かったのです。

これらの結果は、ダイエットのための糖質制限が、ひいては食物繊維を含む炭水化物を制限することになり腸内フローラの観点からは逆効果となっている可能性があることを示すものです。リバウンドを避けるためにも、良い腸内環境を保つために積極的な大腸ケアが必要と言えそうです。

影響①
腸内フローラの状態が悪化する

腸内フローラ判定※1の集計結果を見ると、糖質制限実施者は一般生活者と比べてスコアが悪い状態に陥っていました。腸内フローラの状態が良好だと考えられるA判定の人が、意識的な糖質制限をしていない一般生活者に比べて1/3以下の10%しかいなかったのです。

その一方で、腸内フローラのバランス崩壊が起きているディスバイオーシス状態(大腸劣化)が疑われるE判定の人はいなかったものの、ディスバイオーシス予備軍と考えられるD判定の人は30%にものぼり、D・E判定の合計が一般生活者の2倍以上という結果になりました。

この結果から、糖質制限を行うと腸内フローラの状態が悪くなる傾向にある、ということが言えそうです。これは、炭水化物を食べないことで結果的に食物繊維の摂取まで制限されてしまい、大腸内で“エサ不足”の状態が起こって善玉菌が劣勢になるためだと考えられます。

※1 腸内フローラの検査企業であるサイキンソー社による評価判定。腸内フローラを構成する各菌の特徴より関連づけられた4つの指標(多様性、短鎖脂肪酸、腸管免疫、口腔常在菌)から、腸内細菌を構成する菌のバランスを算出し、腸内環境の良し悪しを総合的に判定しています。

一般生活者と糖質制限実施者の
腸内フローラの比較
一般生活者と糖質制限実施者の腸内フローラの比較

影響②「デブ菌」優位の
太りやすいカラダに

太りやすさを示すFB比※2の集計結果を見ると、糖質制限実施者は一般生活者に比べて値が2倍以上にもなり、太りやすい状態であることが分かりました。

腸内細菌の中には、糞便の構成成分となるはずの食べ物のカスをどんどん消化し、エネルギー源として体に吸収・蓄積させやすい状態にしてしまう菌(いわゆるデブ菌。ファーミキューテス門が代表的)や、脂肪燃焼促進や脂肪蓄積抑制などに役立つスーパー物質の「短鎖脂肪酸」をつくり出す菌(いわゆるヤセ菌。バクテロイデーテス門やビフィズス菌が代表的)など、体型に大きな影響を及ぼす菌がいることが分かってきています。

太りやすさを示す指標
(数字が大きいほど太りやすい状態)
太りやすさを示す指標(数字が大きいほど太りやすい状態)

この結果からも、糖質制限を行うと、腸内フローラ的には太りやすい体質になる可能性がある、ということが言えそうです。糖質制限はダイエット目的で取り組む人が多いと思いますが、過度な糖質制限は逆効果となる恐れもありますので注意が必要です。

もしこれから糖質制限を実施するのであれば、ヤセ菌として有名なビフィズス菌の摂取や、ヤセ菌たちが元気に働いてくれるように、彼らのエサとなる水溶性食物繊維が豊富な海藻類・豆類などを摂取することを意識した方が良いでしょう。

今回の試験はあくまで簡易的に実施されたものではありますが、糖質制限実施者の腸内細菌叢(腸内フローラ)の状態が特徴的で、非常に興味深い結果が出ていると思います。 特に、糖質制限実施者は太りやすさを示すFB比の値が一般生活者の倍以上になっているのはとても印象的でした。ダイエット後にリバウンドしてしまった経験がある人は多いと思いますが、実はこのリバウンドのメカニズムも腸内フローラが関係しているという報告があります(Thaissら, Nature, 2016)。腸内細菌の中には脂肪吸収・燃焼を促すものもいますが、一度太ってしまって腸内フローラも“肥満型”になると、こうした働きを持つ腸内細菌の遺伝子がオフになってしまいます。しかも、太っていたときの状態を腸内フローラが記憶するため、常に痩せにくく太りやすい状態の体になるというのです。ダイエットに取り組むときこそ大腸ケアが重要、ということもぜひ覚えておいてください。

※2 腸内細菌の中で、ファーミキューテス門とバクテロイデーテス門にそれぞれ属する腸内細菌の比からFB比という値を算出しています。痩せ体型の人ではFB比が低く、肥満体型の人でFB比が高い、という研究報告があります。(Ley RE et al., Nature 2006, Turnbaugh PJ et al., Nature 2006)今現在の体型だけでなく、現在の食習慣を継続した場合の、将来的な太りやすさの目安にもなります。

検証試験概要

試 験 名 :糖質制限が腸内フローラ(腸内細菌叢)に与える影響に関する検証試験

目  的 :糖質制限実施者の腸内細菌叢の状態を分析し、一般生活者とどのような違いがあるか検証する。

調査対象 :現在、糖質制限を取り組んでいる30〜50代の健康な女性20名

ここで言う糖質制限とは「精白米、パン類、麺類、餅」および「玄米、穀物米、ブランなどの未精製物」を食べない食生活を指し、食事機会の半分以上において糖質制限をしている人を対象とした。
一方、一般生活者の数値は、サイキンソー社が保有している健康な男女1,314名のデータから算出した。

調査期間 :2019年8月

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